がんばる農家の紹介

幼いころから目にしてきた田園風景を、50年以上にわたり守り続けてきました。

松澤廣さん(見沼区中川)

松澤廣さん

両親のあとを継いで農家へ

両親のあとを継いで農家へ

実家が代々農家で、見沼たんぼで農業を営んでいました。私は長男だったので、自然にあとを継ぐようなかたちで農家になりました。そのころはどの農家でもそうやって親の田んぼを引き継いでいくのが当たり前だったのです。私が農業を始めたのは昭和30年代ごろ。当時はまだ機械もなく、仕事は基本的に手作業でした。

それから50年以上経ち、77歳になった今も、私は見沼たんぼで農業を続けています。時代の移り変わりと共に農業を続ける人も減ってきて、都市開発に伴い田畑が住宅になった場所も多く見られます。私も昔は米を主に作ってきましたが、米価が下がっていることもあり、最近は米以外にも畑でさまざまな野菜を作るようになりました。

地域の地主さんに頼まれて、農業を継続

現在、私は妻と息子と共に専業農家として田畑を管理しています。耕作しているのは私の所有している土地だけではありません。農業を続けられなくなったご近所の方から、「うちの田んぼを貸すので、私の代わりに米を作ってくれませんか」と依頼されることが増えてきたのです。

私ももうかなりの歳ですから、管理する田んぼが増えるのはちょっと大変です。それでも「やれるうちだけでもいいから、お願いします」と頼み込まれると、やっぱり断り切れません。田んぼというのは、一度放置するとすぐに雑草がはびこり、見苦しい荒れ地になってしまいます。私も農家ですから、かつて美しい田んぼだった場所がそうなってしまうのを見るのは苦しいものです。

田んぼの一部は畑に変えて、さまざまな野菜を作っています。里芋、ネギ、ニンジン、枝豆、ナス、キュウリ、ホウレンソウ、大根、イチゴ、トマトなど、たくさんの種類を少しずつ作っています。

米にせよ、野菜にせよ、見沼たんぼは作物を育てる上で非常によい条件だと思います。昭和50年ごろまでは大雨が降るとよく冠水し、野菜がダメになってしまうということもありましたが、水路が整備されてからは多少の大雨では冠水することはなくなり、安心して米や野菜を作れるようになりました。昔のことを知っている身としては、本当にありがたいことです。

農業を営む喜び

機械が発達したとはいえ、農業は決して楽なものではありません。それでもここまで続けることができたのは、それを上回るやりがいがあるからだと思います。汗を流して育てた作物がうまく実って、たくさん収穫できたときは今でもすごくうれしいですし、「今年は去年よりもいい出来になるように」と毎年願いながら仕事に打ち込んでいます。

それに、農業はただ作物を収穫するだけではなく、日本古来の田園風景をかたちづくるという役割も担っています。ときどきですが、そうした風景の美しさを褒めていただけることもあります。最近も畑で菜の花を作っていたところ、通りかかったある人から、「ビルの屋上からいつもこのお花畑を見ていたんですが、すごくきれいですね。ぜひ、毎年作ってください」と声をかけていただきました。観賞用として栽培していたわけではないのですが、自分が作った作物をそんな風に楽しんでくださる方がいらっしゃると思うと、嬉しくなりました。

農業を営む喜び
農業を営む喜び

貴重な田園風景を守り、受け継いでいくために

大宮駅から近い場所に位置する見沼たんぼには、首都圏では貴重な田園風景が広がっています。幼い頃から見続けてきたこの風景を、いつまでも残していきたいというのが私の願いですし、私も身体が動く限りは、農業を続けていきたいと考えています。

とはいえ、私も歳ですし、ひとりで耕せる土地には限りがあります。後継者が見つからずに廃業する農家も珍しくありません。見沼たんぼを未来に引き継ぐためには、新たに農業を始めてくれる人が必要だと思います。ありがたいことに、最近では別の土地からきた方々が数人のグループで農地を開き、野菜づくりなどを始めることも増えつつあるようです。定年を終えた60過ぎの元サラリーマンの方が、初めて農業にチャレンジして成功するという例も聞いています。

60歳というと高齢のようにも見えますが、私などと比べるとずいぶん若いですし、これから技術を身につければ十年、二十年と農業をやっていくことができます。見沼たんぼという恵まれた土地に空き地が増えつつあるのは、これから農業をやってみたいという方にとって、大きなチャンスといえると思います。

本格的に農業をやるのが難しいという人には、家庭菜園を楽しむのもよいのではないでしょうか。そうした方が一人でも増えて、農業の楽しさを知り、そして見沼たんぼの美しい景観が守られていくことを、願ってやみません。もちろん、我々見沼たんぼに関わるメンバーも、そうした方々をサポートする体制をもっと整えていきたいと思います。