がんばる農家の紹介

「リバーシブルライフ」ができる見沼たんぼへいらっしゃい!

前田史朗さん(見沼区見山)

前田史朗さん

「農家」となるまでの道のり

直売所

私は、もともとは埼玉県内の製造業で検査・品質保証の仕事をしていたサラリーマンでした。妻の実家が長野の農家だったので、毎年、田んぼやりんごの収穫を手伝っていました。その頃は、農作業は大変だと感じていた反面、作業の合間に見る景色や季節感を感じたことが、コンクリートに囲まれて仕事をしている自分にとって新鮮なものに感じられました。

55歳を過ぎたころから第二の人生をどう過ごしていこうかと考えた時、農業をやっていきたいと思うようになりました。病気をして薬漬けになりがちな生活の中で健康が大事だと考え、そのためには食べ物が安全でないといけないと実感していました。

妻が少し先に定年を迎え、「農業大学校」や「日本農業実践学園」に通ったあと、小川町で循環型農法を学んだことも強く影響しています。私も60歳の定年以降は「農業大学校」、「就農予備校」を経て埼玉県農林公社の「農業担い手育成塾」、さいたま市中尾の「あしや農業体験塾」、NPO法人「水のフォルム」や「見沼ファーム21」で稲作りや露地野菜栽培の経験と学びを積んできました。今年の3月で「農業担い手育成塾」が卒塾見込みとなり、4月からさいたま市の農業委員会に営農計画を認められて、新規就農する予定です。

土地があっても農業の担い手がいないと、農地は荒廃していきます。だからと言って、新たに農業を始めようと希望する人の認可基準を低くすると、悪質な業者が容易に入ってくる可能性も出てくるので、農業技術、農具やその置き場、働き手や売り先の有無を確かめられることによって認可される制度も必要だと思います。

「見沼たんぼ」との出会い

見沼たんぼについては、初めは何も知りませんでした。サラリーマン時代に帰宅途中の第二産業道路では、左側に新都心のビル群が見えて明るいのに対して右側は真っ暗で、対照的な光景が不思議な印象でした。

休日に妻と見沼代用水沿いに散歩に出かけた際に農地が広がっている見沼たんぼを知りました。見沼自然公園では銅像と案内板で、江戸時代に紀州から来た井沢弥惣兵衛為永が農業用水路を造り、見沼たんぼを整備することに成功したという事を知り、同じ和歌山県出身の私にとって、自宅から近いというだけでなく、何らかのご縁がある土地だと感じました。

見沼たんぼを横切っている高速道路では、夜の走行中に暗いなと感じていましたが、それは周辺の植生を保全するために街灯が低く、下向きになっているということもわかりました。

農作物について

見沼たんぼはその性質上、地下水位が高い土地です。きゅうりを主に作っていますが、植えたあとの水やりの必要はほとんどありません。その反面、土地が低いので大水があると農作物は全滅することもあります。また、冬の時期はにんじんや白菜を作っていますが、低温に苦労しています。

現在の売り先は、スーパーや小売店のほか個人宅への配達もしています。お客さまと直接話しをする機会も多く、変わったものや珍しいものにも取り組んでみようと「鶴首(つるくび)かぼちゃ」や「スティックセニョール」なども作ってみました。「鶴首かぼちゃ」は、細い部分が柔らかく包丁で切りやすいので、力が弱くなった年配の方も簡単に調理できるので喜ばれました。

今後、やっていきたいこと

講習会に参加した時に、車いすで収穫体験をしたいと希望している方があることを知りました。設備を取り入れたり工事をしたりしなくても、今有るものを使って、少し工夫することで実現することができないか、と考えています。ボランティアでイベントとして単発でやるのではなく、お金をいただくことで継続することに意義があると思っています。例えば、きゅうりの支柱の間には車いすが入るスペースがあります。スムーズに進む工夫をすれば収穫体験ができるでしょう。さつまいもの畝(うね)は、脇にスペースを設けることで土の上に直接座って芋ほり体験ができるはずです。その環境を整えるための費用を体験希望の方に少しずつ負担していただくことで事業として継続することも可能になるのではないでしょうか。

見沼たんぼは、都会から近い場所にあります。畑のそばまで車いすで来ることもできるので、体の不自由な方やお年寄りの方々にも来ていただいて、散策だけではなく体験をしてほしいと思います。それには、単に散策路や「道の駅」などの施設をつくるより、誰でも気軽に体験ができるような環境をつくることが良いと考えています。安全・安心な作物をつくりたいと始めた農業ですが、見沼たんぼを後継者につなぐために「ここで稼いでいける、続けていける農業」の必要性を感じています。

ここ数年、普段は都会の家に住み、週末は田舎の家で暮らす「マルチハビテーション」という言葉が話題になっています。見沼たんぼの周辺では、ひとつの家に住んでいるだけで都会的な暮らしと土や自然と触れ合う暮らしの両方ができます。私は「リバーシブルライフ」と名付けて、それができる見沼にいらっしゃい!と呼びかけたいと思います。そのために、もっと良い農地を増やし、活用していただける場を作っていきたいという希望を持っています 。