見沼たんぼコラム

埼大生が紙芝居「見沼の笛」を創作!

本城 昇(埼玉大学名誉教授)

埼大生が見沼地域の魅力を自らの手で表現しようと、見沼地域の伝え語りの「見沼の笛」を紙芝居にしました。
埼玉大学教養学部学生の鎌田諒君が『LOVE浦和 ふるさと浦和のいまむかし』(旧浦和市1988年発行)に伝え語りとして掲載されていた「見沼の笛」を基に脚本を書き、 経済学部学生の澤田茉那美さんが絵を描いて、紙芝居にしました。
その作成過程では、さいたま市役所前の通りでカフェギャラリー「土瑠茶(ドルチェ)」を営んでおられる 子ども文化研究家の中平順子(なかひら・よりこ)さんが懇切に指導して下さいました。

見沼田んぼのすぐそばの東浦和には、高名な教育学者の大田堯先生が住んでおられます。
私は、2010年9月に大田堯先生を訪問し、見沼田んぼのことをお聞きするまではその存在を全く知りませんでした。
しかし、先生からお話をお聞きし、 先生が見沼地域をそのままフィールドミュージアムとしたいとの構想を持たれていることを知って、広大な緑地空間の見沼田んぼが子供達や市民が自然とふれあい、 人とのつながりを取り戻す場として極めて重要であると思うとともに、地元の大学である埼玉大学が見沼地域にしっかりとかかわるべきだと強く思いました。

このため、私の試みとして、経済学部の授業科目として2011年度前期限定で特殊講義「見沼の緑地保全と地域社会」という2単位の科目を設定し、 見沼の環境保全の市民団体や見沼たんぼ地域ガイドクラブの方々の積極的な協力を得て、学生達が見沼でガイド体験する授業を実施しました。
その中で、学生達は、短期間とはいえ、見沼田んぼの良さに惹かれ、その魅力をどうガイドするか若い素直な感覚で自分なりに表現しようとしていました。
学生達には、大変面白い、しかし、地域を具体的に感じ、自らの社会性を高める良い体験となりました。

この授業を通して、私は、地元の人達や学生達が見沼地域の自然や歴史を自然で素朴な形で表現・発信していけば、もっとその魅力が人々に伝わるのではないか、その表現・発信方法として他にどんな適切なものがあるかと思うようになりました。
幸運にも、その少し前に、絵本や紙芝居のご活動をされている中平さんを知る機会に恵まれました。
私は、見沼の用件でさいたま市役所を立ち寄った帰りに偶然に前記カフェギャラリー「土瑠茶」に入り、中平さんを知る奇遇を得ていました。

私は、改めて学生達と中平さんを訪問し、絵本や紙芝居のご活動の話を聞きました。
中平さんは、これまでの人間愛に溢れた人生を語られるとともに、 紙芝居こそ交流の方法として極めて質の高いものであると力強く語られました。
私は、確かに、紙芝居は小さな子に理解でき、しかも、見沼の姿とそこでの人々の暮らしのことを時間と空間を超えて具体的に見える形で総合的に伝えられる優れた方法だと直感しました。
紙芝居によって、地元の人達や地元の大学生達が素朴な形で見沼の魅力を表現できること、それこそ本当の個々人に立脚した地域おこし、人おこしではないかと思いました。できあいのものではなく、 手作りの地元ならではの仕方により、見沼の魅力を心温まる思いを込めて伝える。
素朴な思いに多くの人達が引きつけられ、見沼地域で出会いとつながりが生まれる。
その自然の中で、高齢者から若者、幼い子供達まで心が響き合う。
これこそ、大田先生のおっしゃっておられる見沼フィールドミュージアムの営みではないでしょうか。

「見沼の笛」は、見沼の地域の語り伝えでは、見沼の周辺の水田化が進み、龍神が怒って美女となって、妙なる笛の音で働き手の農家の若者達をさらっていくというような内容のお話です。
これを、2011年度後期限定の埼大経済学部の特殊講義「見沼の緑地保全と交流」と題した私の授業で、鎌田君が脚色して脚本案をつくりました。
他の受講生達が紙芝居を見る人達に分かりやすくなるよう修正する意見を述べ、話の落ちは農民達が見沼の水を大切に使うことにしたという落ちにしました。
そして、澤田さんが各場面を見事な絵にしました。
「見沼の笛」の時代は、まだ室町時代であり、井沢弥惣兵衛為永が見沼代用水を引いて見沼田んぼをつくる前のことでしたので、 澤田さんは、その時代に見沼の風景は果たしてどのような美しさであったかいろいろ想像し、その当時の人々の服装を時代考証しながら絵にしていったと言います。

この「見沼の笛」を上演する予行演習のため、学生達が保育園で「見沼の笛」のみならず、既存の紙芝居も用いて子供達の前で練習しました。
そのときに、学生達が素晴らしい表情で紙芝居を演じたことが忘れられません。
中平さんから、紙芝居をしている上演者の顔は素晴らしい顔になっていると聞いてはいましたが、 百聞は一見にしかず、本当にそのとおりで、大変感動しました。
学生達が大学内では見ることのできないような柔和な素晴らしい表情をしていて、好奇心に満ちて生き生きとした園児達の心と響き合っているようでした。
紙芝居は、人の本来持っている心優しさを見事に引き出す素晴らしい心の交流の方法だと実感しました。

自然と人、人と人を分断する優勝劣敗の厳しい経済社会ではなく、自然と調和し、人と人が柔和に出会い、つながるそうした経済社会を取り戻す、そうした地域おこしの試みを見沼を通じて少し体験させてもらった気がしました。
大学だからこそ、地域の方々とこのような学びと語り合いの楽しい地域おこしの場を容易につくり出せるのではないかと思いました。

プロフィール

本城 昇(ほんじょうのぼる)

埼玉大学名誉教授(博士(農学))
専門は経済法・消費者政策、有機農業研究。
NPO法人日本有機農業研究会理事
著書に『日本の有機農業』(農山漁村文化協会)など。